妄想「離島の長谷藤」(3)

一志の唯一の楽しみは毎日その場所で一人でバスケットをすることでした。
初めて二人でワンオンワンをするのですが、藤真はそんな一志よりはるかにバスケットが上手でした。
「東京で有名な選手だったんじゃないのか」と聞くと、また藤真の表情が曇ってしまいました。東京のことはあまり、喋りたくないようです。
それでも一志は藤真のバスケへの情熱を確かに感じとっていました。
 
藤真はそれから一志と仲良くなり、少しずつ島民にも心を開いていきます。
夏休みに島のお祭りがあり(夜通し火を焚いて踊りながら島を練り歩くというもの)、そのとき、初めて手が触れるというか、偶然に手を繋いでしまう出来事があり、一志はますます藤真に惹かれていきます。
 
二学期になり学校にもすっかり馴染み、元来の明るさと、見た目よりも男らしい性格で島民にも「けんちゃん」と呼ばれて可愛がられ、毎日みんなとバスケをして楽しそうに過ごしていました。
それをみて、良かったと思うと同時に一志にはもうひとつの思いが湧き上がります。
藤真をこのままこの島にいさせていいのだろうかというジレンマです。バスケの実力は疑いようがなく、藤真はこんな所でくすぶっていないでもっと上を目指すべきではないか、もっとふさわしい場所があるのではないか。でも一志にはそれを口に出すことができませんでした。なぜなら、自分が藤真と一緒にいたかったからです。
 
二学期に入ると、進路指導があります。
中三の生徒はほとんど島を出て東京の高校に通わないといけません。
一志は島を出ることを躊躇していました。祖父が家に一人残されてしまうからです。このまま中卒で島で働いてもいいとさえ考えていました。
それを藤真に話すと「じゃあおれもずっとここにいようかな」と言われました。
聞いていた高野や、二年生の伊藤は「そうしろそうしろ」「うれしいです、ずっとバスケ教えてほしいです」と喜ぶが、一志はそれが藤真の本心とは思えず、思わず「おまえは東京に帰れ」と強く言ってしまいます。
一志の思惑を知らない藤真は「帰れ」と言われたことにひどく傷つき、二人は初めて喧嘩をします。
「おまえはずるい、一志」
「・・・」
「じいちゃんのせいにしてるけど、本当は島を出るのがこわいだけだろ」
「・・・」
「おれにだけ東京に帰れなんて、ずるいぞ!」
みたいな。
そしてしばらく口をきかない二人。