花形と長谷川のSS

駅で待ち合わせをしていたら、通りすがりのお婆さんに「はあ大きいですねえ」と両手を合わせてありがたそうに拝まれた。
花形は苦笑しながら会釈を返した。このような出来事は今に始まったことではない。小学生の群れに遭遇すれば「でっけー」「でっけー」の大合唱だし、女子高生には写メを撮られる。
四捨五入して2メートルある身長は、街中でとにかく目立つ。が、試合会場に行けばそうでもない。もっと大きな選手もいるし、なによりも、バスケで背の高さは武器だ。だから花形は自分の身長にコンプレックスを持ったことがあまりない。
「悪い」
曇っていた空から、大粒の雨が落ち始めた。
ちょうどそのとき息を切らして駅舎に駆け込んで来たのは、自分ほどではないがやはり長身の男だった。
「いや、おれもさっき着いたばかりだ」
花形はそう答えて空を見上げた。
「降ってきちまったな」
「そうだな」
長谷川は肩の水滴を払いながら答えた。
「傘もってきたか?」
「いや」
「おれもだ。けど市営体育館なら駅降りて目の前だしな。わざわざ傘買う必要もないかな」
「だな」
そして二人は改札をくぐった。
 
電車の中はそれほど込み合っていなかったが、花形と長谷川は座らずにドア付近の窓際に立った。
乗客がときおり珍しそうにチラチラと視線を向けてくる。つり革と花形たちの顔の高さを見比べているのだ。つり革は花形の首元あたりで揺れている。
チラチラ見られる程度ならまだましだ。藤真と一緒にいるときなどは、あからさまに好奇な目を向けられる。声も態度も大きい高野や永野が加わると、半径三メートル以内に誰も近寄ってこない。
物静かな長谷川は、一緒にいても悪目立ちしない。花形がバスケ部の中で彼と行動することが多いのは、そういう気楽さからかもしれなかった。
「藤真はやっぱり来れないって?」
花形は聞いた。
「ああ、明日、古文の再々追試があるらしい」
「再々追試って。仕方のない奴だな」
英語や数学はトップクラスなのに、古文だけはどうにもならないらしい。おれは平安時代じゃない、今を生きてるんだと言い張る藤真を思い出し、花形は苦笑する。長谷川も少しだけ肩を竦めて同調する。
「そういえば、今から見に行くチームの情報なんだがな」
花形は話を本題に戻す。
「昨年の大会では二回戦で敗退してるんだが、今年は監督も替わってチーム体制を一新してるらしい。実績はないが油断できない」
「・・・」
長谷川は頷いた。花形は、雨に降られてもほとんど崩れていない長谷川の髪型にひそかに感心しながら、話を続ける。
「二年生が主体のチームでな・・・うわ、いま光ったな」
閃光がまたたいたので、花形は車窓の外を見る。
「雷か」
長谷川も同じ方向を見ている
「やみそうにないな」
「ああ、ひどくなってる」
雨の勢いは強まり、次々と車窓に水滴が当たっては斜めに流れていく。
「このぶんだと、体育館着くまでにすぶ濡れになるかもしれないな」
「・・・それは、困るな」
長谷川は窓を見ながら髪に手をやった。
窓の外ではなく、窓ガラスを見ているようだ。外が薄暗いのでガラスには自分たちが映っている。
花形はふと、前々から気になっていたことを聞いてみた。
「一度聞こうと思ってたんだが、おまえって整髪料なに使ってるんだ?」
「え」
長谷川はガラス越しに驚いたように花形を見た。
「使うつもりか?」
と、花形の頭を見ている。
「いや、どうやったらそんな風になるのかなと思って・・・」
花形はガラスに映った自分のストレートヘアに、長谷川のツンツンヘアを移し替えて想像してみた。
「やめたほうがいいか?」
「やめたほうがいいんじゃないか?」
「やっぱ、やめとくか」
互いに顔を近づけ、背中を丸めて車窓を覗き込む大男二人を、乗客たちが今度こそ奇異な目でみていることを、二人は知らない。
 
 
<終>