翔陽

花形夢SS

あの日、日直が一緒になるまで、私は花形くんと話をしたことはありませんでした。 黒縁眼鏡で、頭が良くて、先生に当てられても顔色一つ変えずに難しい数式をすらすら答えちゃう人。 「かっこいいんだけど、なんか頭良すぎて何考えてるかわかんないよね」 「…

チエコ店長と長谷川のSS

「ごめんなさーい、今日はもうお終いなんで・・・」 閉店の準備をしていたらピロロンという入店音が聞こえた。チエコスポーツの店長は、そう言って片付けの手を止めて自動扉のほうを振り返った。 「あ、もう終わりですか・・・?」 商品棚の最上段と頭の高さ…

「逆光とノイズ」5話

​その日のことを思い出すと、僕は今でも、まだ眩しくて少し目を細めてしまう。 ​「噂をすればなんとやら。エース様のお出ましだぜ」 永野さんの言葉に入り口の方をみると、女の子たちのきゃーっという歓声とともに黄緑色のジャージを着た人が現れた。女の子…

花形と長谷川のSS

駅で待ち合わせをしていたら、通りすがりのお婆さんに「はあ大きいですねえ」と両手を合わせてありがたそうに拝まれた。 花形は苦笑しながら会釈を返した。このような出来事は今に始まったことではない。小学生の群れに遭遇すれば「でっけー」「でっけー」の…

「逆光とノイズ」 4話

​ 「ずっと右手ばっかり見つめてるけど、どうしたの?」 その日の夕食の時、母に言われた。 「お兄ちゃん、自分の手ながめてうっとりしてるー。気持ちわるーい」 「う、うるさいな」 中二の妹にまで指摘されて、僕は慌てて右手をテーブルの下に隠した。 「ご…

「逆光とノイズ」 3話

​ といっても受験はそんなに甘いものではなかった。 翔陽高校は県下有数の進学校で、中の上あたりをなんとかキープしていた僕の成績では、正直言って合格ラインに達していなかった。スポーツ特待制度もあったけど、バスケの実力なんてそれ以上に足りてなくて…

「逆光とノイズ」2話

​ ​回り出したフィルムに最初に映し出されたのは、インターハイ神奈川県予選の決勝戦の会場だ。僕はそこに、場違いなところに迷い込んだ子供のような顔をして、遠慮がちに立っている。 といっても、高校生の僕ではない。中学三年生の僕だ。そして僕がいるの…

「逆光とノイズ」 1話

地下鉄の駅の階段を上がると、目の前にチェーンの居酒屋がある。入り口の扉をガラガラと開けると「いらっしゃいませー!」と一斉に声が飛んできた。 「ご予約のお名前お伺いしまーす」 「あ、伊藤といいます」 伊藤様、奥のお座敷にご案内しまーす!と元気よ…